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「えっ、三千万で買われた!?」
痩身のわりになかなかの健啖を見せていた五十嵐だったが、柚子の話を聞いてさすがに箸を止めた。
「あの……買われたとは、どういう……?」
混乱したように五十嵐は柚子を見つめた。
無理もない。
常の感覚では有り得ないようなことなのだから。
「えっと……何から話せばいいのか……。証は何も言ってないんですか?」
「そういえば、二日前に突然三千万をキャッシュで用意してくれと言われましたが……何に使うとか具体的な話は何も……」
「………………」
「では、そのお金は貴方に使ったということですか?」
「…………そうです」
五十嵐は言葉を失ってマジマジと柚子を見つめた。
赤面しながら、柚子はためらいがちに口を開いた。
「その……。私と証は、幼稚園が同じだったんです」
「えっ」
「卒園して以来会ってなかったんですけど、あのお店で久しぶりに会って、向こうはすぐに私だってわかって……」
「…………ああ」
五十嵐はあの日のことをぼんやりと思い出した。
普段あまり人に興味をはらわない証が、柚子を見たとたん顔色を変え、その手を引いてどこかへと姿を消した。
その後戻ってきたのは証一人で、ついに柚子は戻ってこなかった。
一体何があったのかと気にはなっていたが……。
「では二人は幼馴染みという訳なんですね?」
「………いえ、そんなに馴染んでません」
『幼馴染み』といえば、ひどく甘美な響きがあるが、自分と証は決してそんなに親しかった訳ではないので柚子はすぐに五十嵐の言葉を否定した。
五十嵐は怪訝そうに眉を寄せる。
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