奴隷の心得

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だがすぐに表情を和らげ、証は頬杖をついて五十嵐を見上げた。 「………で、あいつちゃんと裸エプロンでお前のこと出迎えたか?」 「ええ、御主人様って言われました。………可哀相に、真っ赤になって震えていましたよ」 吐息混じりで五十嵐が答えると、証はクックッと笑い出した。 五十嵐は静かに証を見下ろす。 「……よろしかったのですか」 「何がだ?」 「俺が彼女の肌を見てしまっても」 その瞬間、証の顔から笑みが消えた。 頬杖を解き、五十嵐を睨み付ける。 「どういう意味だ」 「いつも人付き合いを煩わしがるあなたが同じベッドで寝かせるぐらいですから、よほど大切な女性なのかと。 それなのに、柚子さんのあんなあられもない恰好を俺に見られてもよかったのですか」 五十嵐が淡々とした口調で話し終えると、証は腕を組んで椅子の背凭れに体重を乗せた。 「お前、さっきの話聞いてなかったのか」 「今は秘書ではなく、従兄弟です」 しれっと五十嵐が答えたので、呆れて証は溜息をついた。 「調子のいい奴だな」 確かに五十嵐の口調が「僕」から「俺」になった時は、秘書から従兄弟に変わる時だ。 もちろん二人きりの時だけだが。 「………で、どうなんです?」 「あいつは……」 そこで証は言葉を止めた。 小さく目を伏せる。 「あいつは…そんなんじゃねーんだ……」 「…………………」 五十嵐は黙って証を見つめた。 珍しく物憂い顔をしている証を見て、これ以上は追及するべきではないことを五十嵐は悟った。 その辺りの引き際は心得ている。  
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