奴隷の心得

30/33
前へ
/52ページ
次へ
それから何やかやと雑務をこなし、証が家に着く頃には夜中の1時を回っていた。 とっくに柚子は先に寝ていると思っていたのだが、部屋の明かりが点いていることに気付いた証は急いで靴を脱いだ。 ダイニングに足を踏み入れ、立ちすくむ。 「…………………」 柚子はダイニングテーブルに突っ伏していた。 物音をたてないように側に歩み寄ると、柚子は腕を枕にしてスヤスヤと眠っていた。 本らしき物を下敷きにしている。 どうやら本を読んで証を待つうちに、待ち疲れて眠ってしまったらしい。 (……なんだこれ。……楽譜?) 証は柚子の下敷きになっている本に目を向けた。 柚子の体半分で隠されているのでよくわからないが、五線譜がチラリと垣間見えた。 (………そういやこいつ、なんか夢があるっつってたっけ……) 証は静かに柚子の横の椅子を引き、腰を下ろした。 証の席には皿が何枚か並べられている。 五十嵐の言う通り、証の分の夕飯も用意していたようだ。 証は柚子に視線を戻し、じっとその顔を見つめた。 口は軽く開けられ、スースーと寝息が漏れている。 夢を見ているのか、睫毛が小刻みに震えていた。 証は頬杖をつき、思わずのように呟いた。 「………寝顔は、昔と変わんねーのな………」 余り大きな声を出したつもりはなかったが、柚子の体がピクッと反応した。 うっすらと瞼が持ち上がる。 うたた寝をしていたことに気付き、柚子はガバッと半身を上げた。 それと同時に隣の証に気付く。 「………あれ、証。いつ帰ってきたの……」 「あれ、じゃねーよ。何やってんだ、てめぇは」 証は頬杖をついたまま呆れたように肩で息をついた。  
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!

47633人が本棚に入れています
本棚に追加