悪夢の再会

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「こんばんはー、はじめまして、ユズです」 柚子は隣に座った男性ににっこりと営業スマイルを浮かべながら名刺を渡した。 「………どうも」 男性は戸惑ったように名刺を受け取った。 ザッと見渡すとテーブルには三人の男性がいるが、後の二人は40代半ばといったところ。 ということは柚子が名刺を渡したこの男性が若社長だろうか? 二十代半ばぐらいか、キッチリとスーツを着こなし、眼鏡をかけているせいかひどく真面目そうに見える。 (………でもなんでマリナさんが接客してないんだろ?) 「若いのに社長なんてすごいですね」 「え、いや、僕は……」 男性は慌てて懐から名刺入れを出し、一枚の名刺を柚子に差し出した。 『五十嵐 陸』 肩書は秘書になっている。 「いがらし りくさん?」 「はい」 「秘書さんですか」 「ええ。社長付きの」 五十嵐は笑って名刺入れを懐にしまった。 言われてみれば、確かに社長というよりは秘書っぽい。 「社長は今トイレに行ってます」 「あ、そうなんですか」 答えたその時、柚子の真横に人が立った。 スーツを着てはいるが、柚子と変わらないぐらいの若さである。 「…………あ」 この人が例の若社長だと認識した柚子は、慌てて立ち上がろうとした。 中央の席に戻らせる為だが、男はそのまま柚子の横に腰を下ろした。 「いい。そっち詰めて」 「え、あ、はい」 男が煙草をくわえたので、咄嗟に火を点けようとすると男は煩そうに手を振った。 「いい、自分でする」 「………………」 あまりの男の愛想なさに柚子は呆気にとられた。  
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