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(ぶ、無愛想~~~~)
戻ってきてから一度も柚子の顔を見ず、煙草をふかしている。
一体キャバクラに何をしに来たのだろうか。
(で、でもここで気に入られて、指名貰わなきゃ!)
柚子は気を取り直し、男に名刺を差し出した。
「はじめまして、ユズといいます。よろしくお願いしますね」
その時初めて男が柚子に視線を移した。
正面から見ると、びっくりするぐらいに整った顔の造形をしている。
目が合ったので柚子はとびっきりの笑顔を作った。
だが何故か、男は柚子の顔を見て大きく目を見開いた。
慌てたように煙草を灰皿に押し付ける。
「お前……橘 柚子じゃねぇのか?」
「………………!?」
突然本名を口にされ、柚子は笑顔を作ることも忘れて目の前の男を凝視した。
何故この男が、自分の本名を知っているのだろう……?
「な、なんで……私の名前知って……」
完全に動揺してしまい上擦る声でそう尋ねると、男も動揺しているのかくしゃっと髪を掻き上げた。
「俺だよ。成瀬 証」
「なるせ あかし……?」
聞いてもピンとこずに首を傾げる。
そんな知り合いいただろうか?
名前を告げたのに柚子が悩んでいる様子を見て、証の顔色がみるみる変わっていった。
口元に酷薄そうな笑みが浮かぶ。
「………てめぇ、覚えてねぇのかよ……」
「え、いえ、あの、覚えてます、覚えてます!」
証のあまりの迫力にぎょっとして柚子は必死で記憶の糸を手繰り寄せた。
成瀬 証……。
証……。
あかし……?
「……………あ」
15年前まで遡り、ようやく記憶に辿り着いた柚子はあんぐりと口を開けて証を見つめた。
「証ってまさか……泣き虫証く……」
そこまで言った時、証はぐいっと柚子の手首を掴んで立たせた。
「ち、ちょっ……何す……」
「いいからちょっと来いっ!」
叫ぶようにそう言うと、周囲の注目を集めながら証は柚子の手を引いてずんずんとフロアを突き進んでいった。
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