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「さっき、なんか言ってくれてたよなぁ……?」
「え……?」
「俺のこと、なんだって?」
柚子はハッと先程のことを思い出した。
それと同時に幼稚園の頃の記憶が蘇る。
鷺ノ森幼稚園───。
それが、柚子や証が通っていた幼稚園だ。
皇族や一流企業の子息令嬢が通う、いわゆるセレブ幼稚園。
柚子の父が経営する会社が一番軌道に乗っていた頃で、その頃は柚子も社長令嬢としてセレブな生活を送っていた。
派手好きでプライドが高く、ブランド志向の母親に無理矢理入れられた幼稚園だったが、証とはそこで出会った。
その頃の証は小柄で色白、更に女顔でよく周りの男の子からは『オカマ』と言ってからかわれていた。
からかわれても一言も言い返せず教室の隅でメソメソ泣いている証を、女の子達は『泣き虫証くん』と影で囁き合った。
そういうウジウジしたのが大嫌いだった柚子は、よくそんな証に「男のくせにメソメソ泣いてんじゃないわよ!」と喝を入れて、更に泣かせていた。
「あん時はよくも散々イジメてくれたよなぁ?」
「え。べ、別にあれはイジメという認識は……」
「やったほうは大概がそう言うんだよ。やられたほうがイジメられたと思えばその時点でイジメは成立してんだよ」
間近に顔を寄せられ、その目の鋭さに柚子はゾッとした。
「な、何よ。今更どうしろって言うの。謝れば気が済む訳?」
「まさか。そんなことで気が済む訳ねーだろ」
そう言うと証は再びニヤリと笑った。
人差し指を柚子の鎖骨の中心に当てる。
そしてその指をゆっくりと胸の谷間から腹部へスーッと滑らせた。
思わず柚子は息を詰める。
「屈服させるのも悪くねーな」
「………………!?」
「ま、せいぜい今はキャバ嬢頑張りな。気が向いたらまた来て指名してやるよ」
そこでようやく証は身を起こし、ドアに手をかけた。
一度振り返り、薄く笑う。
「じゃあな、橘 柚子」
冷淡な声を残して、証は個室を出ていった。
柚子は止めていた息をブハッと吐き出す。
(く、く、屈服って何よーーっ)
そのまま便座に座り込み、柚子は頭を抱えてうずくまった。
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