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「あのっ」
「…なんだ」
「あ…その、ここはどこですか?」
返された声の冷たさに、今まで高まっていた気持ちが一気に冷めました。
それと同時に、びしっと体中をぐるぐると縄で絞められたような窮屈な不安が襲ってきました。
彼は、私の顔をじっと見つめてきて、それから僅かに眉間に皺を寄せました。
なぜ、質問を少ししただけで、嫌そうな顔をされなくてはならないのでしょうか?
その態度にムッとしたことと、自分の中の不安感に負けないように、私も彼を睨み返しました。
「だから、嫌いなんだ…生きた女は」
「え?」
侮蔑を含んだ言葉と、揺れたサファイアの瞳の不釣合いな様子に、私は睨んでいた目を僅かに開きました。
――なぜ、泣きそうな顔でそのような事を仰るの?
彼は、私の問いに答える気が無いのか、私に背を向けて何処かへ行ってしまいました。
「え…お待ちください!!」
私の呼び止める声は、パタンと閉じた木製の扉であっさりと跳ね返されてしまいました。
「ど、どうしましょう…追いかけるべきなのかしら?」
私は、真っ暗な燭架の蝋燭の火と、月光の明かりしかない、ほんのりと明るい室内に一人残されて、少々…いいえ、とても怖くなりました。
私に対してとても友好的とは思えない男性だったとしても、このような場所に一人残されるよりはいいはず…ですよね?
そう自分に言い聞かせ、私は彼の後を追うべく立ち上がろうとしました。
かさり―と、立ち上がるために添えた手に綺麗な花が触れました。
「え?」
なぜ、私の横にこの様なものが置かれているのでしょうか?
いいえ、真っ白な花は私の隣だけではなく、ぐるりと体を包み込んでおりました。
そして、白い花と私は、黒く細長い箱の中に、守られるように納められていました。
「これは、どういうことかしら…」
するりと手触りの良い、黒い縁を手で撫ぜて、もう一度周囲へと目を向けました。
綺麗なステンドグラスに、祭壇…それから銀色の燭架。
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