トリップ・リップ

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「は? オレに押し付ける気かよ!?」  扉に寄りかかっていた男性が、突然振られた言葉に声を荒げます。  あの方のお名前はフォーネストさんとおっしゃるのですね。  サイードさんは、フォーネストさんの剣幕にもまったく動じる様子も無く、口調も柔らかに続けます。  きっと、優しい笑顔も浮かべているのでしょう。 「貴方が買ったのですから、お世話をするのは当たり前でしょう。それに、お部屋は私の寝室とこの祭室と…それから、貴方にお貸しした客室の一室しかないのですよ?」 「お前の部屋で寝かせればいいだろう」 「残念なことに、私の部屋にはベッドは一つしかありません。まさか、女性と私を一緒のベッドで寝かせようなどと思っていませんよね?」 「じゃあ、このままここに寝かせりゃいいじゃねーか」 「そんなこと私が許すはず無いでしょう?」  口調は変わらないままでしたけれど、すっと背筋が冷えるような冷たい声音でした。  顔は窺えませんが、フォーネストさんのたじろいだ様子を見る限り、見られなかったことの方が良いことだったのだと思われます。 「っち」  フォーネストさんは、舌打ちをして部屋から出て行きました。  え…これは、どうなったのでしょうか? 「では、話は纏まりましたので、彼についていってください。」  扉の部屋が閉まるのと同時に、サイードさんが振り向いて微笑まれます。  その突然の展開に、私はまだ頭がついていけず、ただサイードさんの顔を見上げるばかり。
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