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-二週間前-
朝の通勤ラッシュの電車が通り過ぎる音に目が覚めた。
私の住み処となっているこのアパートは駅に近く、私は決まって電車の音に目を覚ましている。
この紅月 夕(こうづき ゆう)の部屋にはあまりに物がない。
ベッドに冷蔵庫に萎れた観葉植物がひとつあるだけだ。
私自身、自分の生活に物足りなさはあるが、それは『物』だけではない気がする。
仕事に向かうためにスーツに着替え、この殺風景な部屋から出た。
私の仕事場は少し変わっていて遅刻や面倒な規則はない。
歩き続けて30分、廃れた廃ビルの中へと足を進める。
階段を上り、着いたのは4階にあるこの廃れた場所に似合わない西洋風の扉
扉を開けると違う意味ですると空間があった。
山積みの資料や書類、いわくつきらしい工芸品や呪符、埃にまみれた部屋全体、その中に黒塗りの光沢があるデスク
そしてそのデスクに腰掛け、コーヒーを飲む暗い藍色の髪と碧眼を片目に持つ男がいた。
相変わらずの事務所だな。
でも、それが何故か心地好い気がした。
「今日も遅いね」
ふとデスクに腰掛けている男、神崎 煌輝(かんざき こうき)が私にお決まりの台詞を話す。
「別にいいだろ。どうせ暇なんだ」
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