prologue

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暑さも益々増し、蝉たちの合唱もいよいよ本格化しようというこの季節。都会では記録的な真夏日を記録したのを背に、この村ではあのまとわりつくような暑さはない。田舎特有の涼やかさというやつかもしれない。村中は一通り見て周ったが、これといった収穫はあまりなかった。 まぁ、一つあるとすればそれは…………慣れ親しんだ家が、今はほこりやらなにやらでまみれていたことと、かつてはちゃんと『そこ』にあったものが『今はない』ということくらいだ。随分と年月が経っているから仕方ないと言えばないが、少々残念な気もしなくはない。かろうじて残っているのはやたら長い石段と、『枢木神社』と記された石彫りの表札と廃れた面影だけだ。もう二度と来まいと思っていた場所に、今こうして再び訪れることになるのもヘンな話しだ。 石段を上がりきると、そこには廃れた祠とお社がある。何が祀られているわけでもなく中はもぬけのカラ。その代わりか、祠の方にはなにやら布のようなものでぐるぐる巻きにされた刀があるくらい。自分でも見たことはないから、それがあるかどうかも怪しい。 梨花 「……あら、珍しいのがいるわよ羽入」 聞きなれた声がして、振り向く。まるで人形のような可愛らしい外見とはまったく似つかわしくないひねくれた口調で話す少女と、びくびくしながらその後ろに隠れるようにしてこちらを覗き込んでくる少女。………まぁ、両者とも『少女』という言葉が合うかどうかはイマイチ疑問があるが。 梨花 「やっと蚊帳の中に入る気になったのかしら………枢木 刹那」 刹那 「呼んだのはおまえだろうに」 梨花 「あら、枢木家の人間がこの私にそんな口をよくきけるわね………?」 返すとまた面倒なことになりかねないので、とりあえずだんまりを決め込む。
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