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悔恨や懺悔。言われのない感情に囲われて、今まで送っていった人間を振り返る。そしてまた悔恨。
立ち止まっている私に降りかかるのは、そんな感情の連鎖だった。
「もう、覚えていない……私は、何をしていたのだろうか」
時間と共に、感覚が抜け落ちてゆくのが私にはよくわかった。窓からの熱気、鎖の刺さるような冷たさ。全てが無くなってゆく。
周りから神と呼ばれ、また自分も神だと自負していた。それなのに、この牢獄から抜け出す事すらできないなんて……
そんな時だった。私の牢獄を形成していた、入口のドアが開け放たれる。
差し込む光。炎の赤とは違う、鮮明な白。その眩しさに、私は手で目を覆う事しかできない。
「これはこれは……」
そう言いつつ近づく人影。その姿が、光に慣れてゆく私の中で少しずつはっきりとしている。
私と同じ、しかし煤けた銀の胸当てに、籠手や具足。腰に下げた剣は、その刀身を揺らめかせている。
そんな見た目に反して、男はまだあどけなさが残っていた。茶色の髪を思うがままに跳ねさせ、目には輝きを秘めていたのだ。
その男は差し出す。二つしかないその手を、この私に。それをただ、見つめるしかなかった。
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