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何もない草原。暗い雲が立ち込め、夕焼けが草を紅に染める。
そう、草原にちりばめられた血を、隠すかのように。
人々が、剣を手に死に物狂いで人を手にかける。その目は、生きる事に必死に取りつき、獣に等しい。
私はその中で、一人の男と対峙していた。自分の姿、長い銀髪に鎖帷子のような、細かい金属片の合わさったドレスを身に纏った姿。それを見て、男は戦いている。
「お前は選ばれたのだ。何を躊躇っている?」
男の身なりは、世辞にもよいとは言えない。擦りきれそうな革の服と、錆びている短剣が、否応なしにこの戦に駆り出されたのだと告げている。
「黙れ! こ、この死神……お、俺はまだ死なないんだ!」
男は背を向けて、私から遠ざかってゆく。その先にあるのは戦争。血の華が舞い散る、死の泉しかないというのに。
「死神……か」
私がそう呼ばれるようになったのは、いつだろうか。死神。ただ、私は役目を果たしているだけなのに。
「あながち、間違っているわけではないがな」
死に行く運命を背負った背中が、血の華に入るのを、私は見ているしかなかった。
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