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夕闇の空。戦争があった事が、嘘のように草原は静まりかえっている。
「血の匂い……慣れたくはないが」
頭の羽飾りに手を当てつつ、私は一つの死体へと手を伸ばす。
それは、さっき話した男。肩に大きな傷こそあるが、死に顔は穏やかなものだった。
「お前は、死を拒んだが、死はお前を受け入れた。だが、お前はまた選ばれた。導き、そしてまた生きるがいい」
その顔に、私は静かに口づけをした。冷たい体、それが光を帯びて行く。
「逝くのには、まだ早い」
そこから出た光の玉を、両手で受け取る。そして天に差し出す。
この時は、堪らなく陰鬱だ。何せ、こんな事をしても誰も喜ばない。残るのは、男の家族の恨みと、次の仕事にかかれという催促だけだからだ。
夜闇の中、光が遥か空へと昇っていく。しかし、私はその空を目指せなかった。
こんな仕事を、なぜしているのだろうと、ふと空に問いかける。
有能な死者を探しだし、その魂を神へと差し出す。それが私の役割だった。
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