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『力…
私はそれに求められた。
私もまた…求めている。
もっと力を…奴を始末する力を。
彼の心はこの言葉にだけ縛られていた。
使命感に燃えたぎっている彼の心と目からは一筋の涙すら零れない。
ただ知恵を振り絞り…仲間を欺き、自分の願望にのみ固執した。
結局、彼は宿敵との戦いに破れて荒野に散っていった』
俺は隠れ家で、くたびれてクッションの痩せたソファに座りながら本を読んでいた。
買った物ではない路地裏に捨て去られてた一冊の本だ。
檜皮色の表紙が妙に気になったから拾って読んでみただけだ。
しかも物語の主人公はどうも俺に似ている。
同姓同名な上に、置かれている境遇まで瓜二つだったんだ。
ヴィンセント・ジルヴォー。
それが俺の名前であり、主人公の名前だ。
俺…いや、彼は父親に捨てられ、他の似た境遇の者と協力関係を結ぶ。
そして宿敵、つまり父親に復讐するために仲間を裏切るが、最後は死んでしまうという話だ。
この物語を読むと自分の未来を見ているようで皮肉だ。
俺も父親に捨てられた。復讐したいとも思っている。
だが俺は仲間を裏切らない。それだけは言える。
ふぅ、と少し小さなため息をついて静かに本をくたびれた机に置いた。
顔を洗い流すように上下に顔を撫でる。きっと日頃の疲れが溜まっているせいだろう。
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