1章

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それから1カ月。 気になることと言えば、 教授の担当ゼミの研究テーマと、自分の論文くらいだ。 「天使(笑)」の存在を忘れることはなかったが、顔はもうおぼろげだった。 「お疲れ様でーす。」 学生の声が教室に響く。ゼミだ。 3年生とは打ち解けているが、2年生は今年度に入ってからの付き合いで、まだ気軽に声を掛け合う仲ではない。 友達づくりをするためにゼミに参加しているわけではないから、こちらから寄って行くことはない。 座るところも一人輪から外れている。 作業を進めるうちになんとなく自然に打ち解けられればいいいと考えているのだ。 「じゃあ、はじめようか。」 教授のこの一声でなんとなくゆるく始まる。 ゆるい雰囲気だが、言うことはしっかりしている。 笑顔で学生の研究の進捗状況に、きついダメ出しをする。 彼からしてみれば当然のことを言っているが、学生からすれば心が折れる思いなのだと、よく彼は耳にする。 ゼミ長が発言しようと口を開いたその時だった。 ガチャ。 扉が開いた。 全員揃っていたと思っていたが、誰かいなかっただろうか。 彼はパソコンから顔を上げることはなかったが、視線だけ扉に向けた。
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