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「今宵は、此処にて夜営致したいと存じますが。」
と鹿介が馬上の勝久を仰ぎ見て言った。
勝久は鹿介の言葉に頷き、
「良かろう。」
と答えた。
辺りは山麓の台地で、傍らには出石山に至る原生林が続き、脇に小川が流れている。
太陽は西に傾きつつあるが、まだ日暮れには間がある。
そこで、今のうちに夜明かしの支度のを調えておこうというのである。
普通であれば、夫丸(ぶまる)や陣夫(じんぷ)がやるようなことでも、皆で手分けて行うほかない。
尼子軍団には、行軍時、通常連れている夫丸などが居ないのである。
夫丸、陣夫とは、陣中の労役や物資の輸送を行う人足で、武士が領民から徴集する非戦闘員である。
領土を持たない流彷の私兵集団たる尼子軍には、それを集めることは出来ない。
武士達が自ら薪(たきぎ)を集めて火を焚いて暖を摂り、火を囲む武士達は、皆がそれぞれに干し飯や兵糧丸などを頬張った。
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