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やがて日も暮れ、武士達は哨戒に当たっている者を残して、寝筵(ねむしろ)に包まった。
朝夙(あさまだき)
まだ明けやらぬ澄んだ空には、満点の星が輝き、寅の刻までは一刻ほどもありそうである。
哨戒に当たっていた武士の一人が、鹿介の元に慌ただしく走り寄った。
その近付く足音に半身起こした鹿介は、
「何があった?」
と報告を求めた。
鹿介に走り寄ってきた武士は、
「斥候に出た者の知らせでは、軍勢が近付いてくるとの話です。」
と緊張に強張った顔で切り出した。
鹿介は、念のために夜目の利く小助を斥候に出していた。
「敵か味方か。」
鹿介は落ち着いている。
「敵です。」
報告の武士は即座に答えた。
「武田家家臣の指し物が見えたそうです。」
「武田高信か…」
夜陰に鹿介の目が冷たく光った。
武田高信は因幡国に勢力を有する豪族で、元々は、山名氏の家臣であったが、今は独立して逆に山名氏を侵害しているのだ。
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