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しかし、先鋒の二人の騎馬武者のうち残った一人が、この騒ぎを制して、弓足軽に命じて弓を射掛けさせようとした。
本来であれば川を挟んで対した時、既に弓を構えさせておくべきであったが、尼子勢が余りに小勢であるのを見て侮ったのだ。
鹿介は、この油断を見抜いて弓を射たのである。
鹿介は、敵の弓足軽12~3人が弓を構えようとするのを見ると、
「数が違い過ぎるわ!」
と川向こうまで聞こえるほどの大声で言い、
「退(ひ)けや者共!」
と踵を返して逃げ出した。
勝久も逃走を図って馬首を返し、付き従っていた武士達も算を乱して逃げ出した。
この様子を見ていた武田勢の足軽達は、
「逃げるぞ!追え!」
と口々に叫び、陣を崩して川を渡り始める。
武田勢の先鋒を与(あずか)る馬上の武士は、何事か叫んでいるが、足軽達が川の水を蹴立てて進む音と、突貫の声に掻き消されて、誰の耳にも届いていない。
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