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止むなく足軽達の指揮官である騎馬武者は、勝手に進む足軽達に釣られて、駒を川に乗り入れた。
川は、人の腿(もも)位までの深さで、馬が姿勢を崩さぬように、供の中間(ちゅうげん)に馬を支えさせて渡るのであるから時間が掛かる。
このため、足軽との間は離れる一方となってしまった。
武田勢の足軽達には、一合も槍を交えずに逃げ出した尼子勢は、獲物としか見えないのだろう。
足軽達には、戦場で首を挙げるか、銭になりそうなものを奪うのは重要な収入源なのだ。
だから戦意を失った敵兵は、たやすく狩れる獲物以外の何物でもないのである。
「掛かったな。」
逃げながら、鹿介は追撃して来る武田勢の足軽達を振り返った。
逃げる尼子勢が林の脇を通り過ぎ、追い縋る武田勢の足軽達が林の横に差し掛かった。
林の手前には、一間ばかりの高さの篠竹が群生している。
冷静な時であったなら、その篠竹が風も無いのに不自然に揺れていることに気付くことが出来たであろう。
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