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愁菊
お姐様が水あげだなんて……。
愁菊の悲しみの夜が明けて翌日。
「私、この話は遠慮させて頂きます」
華が突然にそんな事を言い出した。
女将は激怒したが、そしらぬ顔。
いつものようにしとやかに紅をさす。
愁菊は華が紅をさす姿が好きだった。
誰よりも鮮やかに妖艶に輝く赤い唇。
きゅっと締まった広角の口に赤い色が映える。
「お姐様」
話しかけると、華は髪を結いながら此方を向く。
そして、自分だけには微笑んでくれる。
お姐様は私の物。
そんな独占欲が日に日に膨らんでいく。
本当は飛び上がって喜びたい気持ちを抑え、聞いてみる。
「どうして、玉李の旦那様の話を断ったのですか?」
ふっ。と、遠い目をして華は笑う。
「ねぇ。愁菊。私に関わる男はどうなるか知っているでしょ?」
愁菊にとって、この発言は意外だった。
客を人間とも思わない、ただの獣だと言う華が初めてそんな事を気にするように言ったのだ。
「何故……?」
愚問だった。
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