一人目

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一人目

何故、華が水あげ話を断るのか皆一様に噂した。 今まで有った話を華は断った事がないのだ。   だから、女将ですら華の確認も取らずに玉李の旦那に華も喜んでいる。などと、言えたのだ。 女将は怯えていた。 あの玉李家に敵視されてしまったら、自分の廓はきっと寂れてしまうだろう。 玉李家の権力は其ほど、強かった。 だから、玉李家の裏の噂ですら表には漏れない。 裏ではどうしても何処かで漏れてしまうものなのだが。 玉李家を脅して金を巻き上げるなど大それた事をする者はいなかった。 そんな事をすれば、逆に何かの濡衣を着せられ、罰せられてしまうだろう。 身に覚えのない事。 されど、何も答えられずに何かしらの理由を考え付くまで拷問を受け。 その挙句、また何かの罰を受けるだろう。 それはどうしても避けたかった。 その日、華を買いたいと言う客が来た。 女将は迷った。   だが、その客は玉李の旦那より権力が有る者で。 流石にこの客ならば、断らずとも旦那も納得するだろう。 女将はそう考えた。   昨晩、玉李の旦那はこう言った。 「なら、華が頷くまで待とう。だが、水あげ前に華に客が付いたなら……」 最後はニヤリと笑って、それ以上は言わずに玉李の旦那は帰って行った。 華の事をえらく気に入った様子で。 なのに華は首を振らない。   『まだ、駄目です』   華はあの晩、玉李の旦那にそう言った。 だが、他の者達は二人の睦事の枕話など何も知らない。   妬む者達が多かった。   だから、女将が華に辛く当たっても誰も何も言わなかった。   いや。ただ一人を除いて。   「可哀想なお姐様。私が守ってあげる」   愁菊はそう呟いた。
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