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「大村艦長」
脇に青年が立ち、敬礼。素早く何かを耳打ちし、大村艦長と呼ばれた方は盛大に顔をしかめた。
「確かか?」
「間違いありません。黄色の狼煙が四本、丘より。退却命令です」
「いつものごとく、か」
頭をばりばりとかきながら苦悩の表情で目を閉じる。
「西郷殿の温情主義にはいささか呆れざるを得んな。」
「同感です」
若い士官は憤然とした面持ちで頷いた。
「こんな生ぬるいことをしてるから、後年あんな死に方を」
「言葉に気を付けろ」
静かだが、刀のように鋭い制止。それだけで士官は口をつぐみ、青ざめて俯く。
そんな士官の頭に一つ手をおいてから、通信機の前に座る兵の方に視線を向ける。
「グラバー殿に繋いでくれ。あの好戦的な英国人を鎮められるのはたぶん俺だけだからな」
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