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「増、援は、まだかあああああ!」
むせかえるような熱気と鼓膜の機能を停止一歩手前まで追い込む大騒音の中で、迷彩服を着た一人の年配の男が叫ぶ。叫びながらも89式小銃の引き金は引かれ続けたため、叫んだ意味はあまりなかったが。
「第二隊、第一隊に続いて進軍停止!」
それでも彼の声を辛うじて拾った優秀な耳の持ち主が、トランシーバーから漏れる声をききながら叫び返す。
「理由は第一隊同様!敵伏兵部隊と交戦中!現在第三隊がこちらに向かっている模様!」
「ご苦労!本部に伝えろ!三度目の正直であることを祈ってるってな!」
連射音と断末魔のこの上なく胸くそ悪い合唱に眉をしかめながら男は通信兵に向かって吐き捨てた。
「でなけりゃ帰ってから偵察班を半殺しにしなきゃいけなくなる!」
「今だって十分その権利はありますよ!」
通信兵のすぐわきでMINIMIの弾倉を取り替えながら別の隊員が憤然と声を上げる。
「あいつらがもっとしっかりしてりゃこんな苦労はせずにすんだんだ!そう思いませんか中倉さん!?」
「あぁ、そうだな!ついでに一つ先輩からありがたい忠告だ!」
年配の男───中倉は右手から迫ってきた鎧武者五人をなぎ倒し、それからたれた目を目一杯つり上げてなおもぶつくさ言っている若手隊員の頭に鉄槌を落とした。
「今は愚痴より射撃に専念しろこのトンチキ!」
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