ディスパッチ

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少し上り坂のPBB(パッセンジャーボーディングブリッジ=搭乗ゲートと飛行機までの間にある渡り廊下)をキャプテンと歩く。 地上係員に軽く挨拶をし、ディスパッチルームへ向かう。 ディスパッチルームとは運行管理室の事で、その空港から離着陸する飛行機に対する運行支援や管制塔へのフライトプラン(飛行計画書)提出、本社への諸報告などの業務を行っている所だ。 また、実際に空を飛んだパイロットから上空の状態を聞き、他の便へ情報を提供する。 その「情報提供」をしに向かっていたのだ。 「520便の廣瀬です。四国上空27000ftでlightマイナス程度の揺れがありましたが、それ以外は快晴でした。以上です。」 「はい。ありがとうございます。お疲れ様でした。」 「それじゃ吉井君、飯でも食べようかね。」 そう言ってディスパッチャーから乗務員弁当を貰うと隣のテレビと棚台と机と椅子しかない休憩室へ向かった。 この乗務員弁当、空港で売られているのかはわからないが、そこそこ旨い。 コンビニ弁当とは違い、豪華さは無いものの、体調第一のパイロットのために栄養のバランスをよく考えられて作られている。 「じゃ、頂こうかね。」 テレビも付けず、2人静かに弁当を食う。 吉井にとってはこの空気が気まずく感じる。「CAさん、早く来てくれ。」そう願いながら弁当の封を開けた。 するとそこへ 「お疲れ様でーす。あっ!またこの前のお弁当と同じだ。私これでこの弁当食べるの5回目なんです。」 とCA3人が仲良く現れた。 ローカルしか飛んでない、路線も多くない、しかも弁当の種類が1種類しかないJANでは、月が替わる度に弁当も替わるものの、同じ弁当を食べないといけないのは仕方のない事だ。 CAが現れて吉井は内心ほっ、っとした。 今まで息苦しいと感じていた休憩室の空気が一変したのだ。 「ま、しょうがないさ。ささ、一緒に食べよう。」 にやけ顔になりながら言う廣瀬を見ると、廣瀬もそう感じていたのではないかな…と吉井は思った。 「はーい。お弁当貰ってきますね。」 CAが弁当を貰い、「いただきます。」と食べ始めた。
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