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「見て!たんぽぽのわたげだよ」
あれから、もうずいぶん経ったな。
あの時、彼が飛ばした綿毛は、立派な花になったになっただろうか?
隣で気持ち良さそうに昼寝をしている彼のほっぺたをぷにっと突いてみる。
「………」
起きやしない。つまんないなと、私は狭いベランダに降りた。
「あ…」
目の前をたくさんの綿毛が横切った。
「何してるの?」
いつのまに起きたのか気付くと彼の腕のなかに。
「思い出してた。色々」
「そっか」
あの時も今この瞬間も、
やわらかく包まれている。
ふわふわ飛んで、全然つかめない。
彼は、わたげのような人かもしれない。
「好きだよ」
「ん、なんだよいきなり」
「飛んでっちゃわないでね」
「は?」
私は、あなたがどこにも行かないように、花になるための大地になりましょう。
…なんてね。
終
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