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終電の時間まであと少し。
慌ててホームに駆けてゆく人達の流れに逆らうように、二人ゆっくり歩いた。
「あの…。」
君は俺を見た。
わかってる。
いつだって、温もりを、優しさをくれたその手を、
もう、放さなければいけないこと。
「電車、いっちゃう。」
「あ、ごめん…。」
俺は彼女の手を放した。
そして彼女は電車に乗り込む。
「ありがと、ね。」
切なげにほほえんで言った。
「そりゃ、俺の台詞だろ?」
俺たちのたどる道は、あまりにも違いすぎるから。
お互い、夢を夢のまま終わらせたくない。
そもそも、愛する人と夢を天秤に掛けてしまったのは、愚かなことなんだろうか?
閉まるドア。
二人、聞こえない窓越しの会話。
霞む景色。
走りだす電車。
最後に君の唇は、「さよなら」と動いた。
微笑んで。
まるで「またね」とでも言うように。
二人の約束は、俺たちが出会ったこと、一緒に過ごした日々、そして別れを後悔しないこと…。
約束は守らないとな。
バイバイ、さようなら
終
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