かぐや姫

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秋の下旬頃、とある広い屋敷の座敷に二人の老人と一人の若い男性が座っていた。 「すいませんね。態々来て頂いて……」 「いえ、いえ…。構いませんよ。これもまた、商売ですので……」 丁寧に、ゆっくりと男は二人の老人に向かって答えた。 異様なまでに白い肌。映えるように塗ってある紅い隈取り。奇抜な模様の入った目立った格好の男、薬売り。 そう、彼はこの屋敷の持ち主である老夫婦に薬を売って欲しいと頼まれ、この屋敷に上がり込んだのだ。 広い屋敷にも関わらず、使用人はほんの僅か。彼の商いが薬を売るだけなら売ったら売ったで即座に立ち去るもの…しかし、 「せっかくお越しになったんですから、今夜泊まっていたらどうですか?」 そう薬売りに勧めたのは、屋敷の主人である老人の明正<アキマサ>である。 「そう…ですね。街の宿はもう満杯でしたので、丁度、良かった…ですよ」 薬売りが良いと答えると、二人の老夫婦は何処か嬉しそうに微笑んだ。
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