穢れたロマンチスト

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 未来が恐ろしいのは、わかる。  私はどうしようもないほど潔癖で、  生きることが恐ろしい。  それから逃げてしまいたい。  息をするだけで罪になる私を、  誰かが裁きにくるはずだと  じ、っと待てど  きっとその裁きを与える誰かは  私の居場所を知らなくて、  未だ辿りつけていない。  指先を空に向けて教えても、  私の小さな印じゃすぐに  見えなくなることだろう。  風が強い日だな、と私は  ヘッドセットを取り、窓を開けた。  暖かい風が勢いよく、這入ってきた。  「煙草を買いにいこうかな」  自傷の行為を始めるために。  腕を切るのは性行為みたいなものだ。  快楽ごとなのだ。  泣ける自分を確認して痛みに笑う作業は  自傷とは言えない。  私に限れば、そうだと  強く頷くことができる。  私のようなロマンチストを被る  矮小な生き物は  早く死んでしまえばいい。  私は自分を  ロマンチストだと自覚している。  それを誰かが確認できなくても  私はロマンチストを自負する。  私は空を愛している。  私わ青を愛している。  私は血液を流し  傷跡を晒し誰かの歪んだ顔を見て  笑うことが、楽しくて  好きな人ができたのならば、私はなおも  腕を切る作業に励むのだ。  好きにならないように、私から  目をそむけるように。  それは本心かと言えば違う。  本当は汚い私を見て欲しいのだ。  際限なく穢れる私を。  けれどそんなこと私自身の他に  誰ができるだろうか。  「さようなら」  
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