明白な答え合わせ

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 小さな頃、  私は無邪気だったように思うのだ。  けれど、それは嘘だった。  無邪気なら私は私に、こうも刃を向けて  脅したりはしないんだろう。  「月へ行く鍵を、  お前持ってるんだろう」  私は、私を見つめながら  その私も私を見つめながら  包丁の切っ先が、私を向いている。  私は――小さな私は、幼い私は  両手で包丁を持って  私、私を今にも刺そうと、している。  夢の中、なんだろうか  じゃなきゃ、この状況は説明できない。  「答えろよ」  「持ってるわけ、ないだろ」  「嘘だ!」  小さな頃、私は無邪気だった。  信じていた、  此処は私の居場所なんかじゃないと。  だからこれは夢だとしても、  現実なんだろう。  これは私のリアルなんだろう。  小さな私は目に殺気を宿らせて、  窓をバックに――いや、あれは月か。  月が見える。  夜空には、  月がでかでかとかかっていて  その周りには星が瞬いている。  嗚呼  「月なんかに、  いけるわけがないだろう」  「行ける、  私の居場所はあそこにあるんだ!」  「でも私は  その道を見つけられなかった」  「どうしてだ、私は知っていた筈なのに  こんなところにずっと、  居るわけがないのに」  「それでも私は今、此処に居る。  ずっと、ずっと――死ぬまで」  「嘘だ!」  信じ難いのだろう。  私は私を睨みつけながら、  包丁を持つ手が震えていく。  私は、ぼんやりと、  その様子を眺めている。  止めることはない、  その切っ先が私に呑み込まれても  私には困る現実なんて待っちゃいない。  お前には、残念な知らせだよ。  私はずっと、ここから出られない。  否、もう動く気力さえ残っちゃいない。  誰かが  世界から連れ出してくれるだなんて  頑なに優しさを信じているお前には、  残念な知らせだけれど。  
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