明白な答え合わせ

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 小さな私は私をじ、っと見ている。  ただただ睨みつけてくる。  感情を剥き出しに、  けれどそれができるのは  私が相手だからなんだろう。  空っぽの、私は  空っぽの私にしか素直になれない。  「――これで、刺せば、いいのか」  「ああ。刺してくれ。ちゃんと心臓を  痛いのは嫌いだからなるべく、  痛くないと良いんだけどなぁ」  「痛いに、決まってる」  小さな私は私をじ、っと見ている。  けれど睨みつけながら笑っていた。  感情を剥き出しに、  けれどそれができるのは  私が相手だからなんだろう。  私は誰かを傷つけてしまいたくて、  堪らない人間だった、昔から。  傷つけられた分  世界を傷つけてしまいたかった。  「月に行けば  やり直せると思ったんだよ」  「はは、もうその歳でやり直すとか  とんだマセた餓鬼だ」  「私はお前だろ」  「そうだったな」  傷つけられる対象が、  自分だけれど他人の私と私は  お互いに、堪え切れなくて口元が緩む。  「アイツを、  本当は刺してしまいたかった」  「あんだけ殴られたんじゃ、  仕方ないさ」  「けど、しなかった。  アイツの前で自殺してやろうかとも  思ったけど、できなかった」  「……ああ、そうだな」  月に行けばやり直せると思ってた。  あの綺麗な黄金色に光る、  静かそうな星に行けば誰も  自分を傷つけないんだと。  私をきっと受け入れてくれるんだと  そう信じて疑わなかった。  けれどそんな思い込みは  アポロ計画で破綻して  そして宇宙服を着た地球人は  こんな世界に帰ってきてしまうし  地球は青かった、だなんて  私はそんなことどうだって良くて  そこへ行く術を、  私は持てないんだということに  虚しくなった。  
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