明白な答え合わせ

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 逃げ場なんて、どこにもなかった  幼い頃の私は  逃げ場を塞ぐ全てを愛し、憎んだ。  それは報われずに、  暴力として返ってきて  ――良い子に  ――悪い子ね  ――良い子に  ――悪い子ね  ――悪い子ね悪い子ね悪い子ね悪い子ね  「もし、だなんてどこにもないよ。  私もこの歳になるから、  色々な人間と出逢ったけれど全て、  お前が知る奴らと  大して変わらないんだ。  私が望んだものは何一つ、  持っていない。誰も、そして私も、ね」  「答えはもう、持っているのに  どうして私は回答を見ようと、  しなかったんだろう」  「怖かったんだろ」  メスを、喉元から外す。  小さい私はいつの間にか目の前に居て  私を深く深い黒で見つめてくる。  まだ頬もふっくらしていて、白くって  なのに、  思っていた以上に冷め切った目が  私を寂しくさせた。  私は、なんにも、変わっちゃいない。  「だから、もう良いだろ」  「うん」  「答え合わせは、もう済んだか」  ――ズクリ、と  ――ズブリ、と  ――ズクン、と  痛いのは  極力やめてくれと言ったのに私は、  その切っ先を腹に向けて  口からは呻きが漏れる。そのまま  横に捌いたかと思えばグリグリと  いたぶるように刃の先を内臓に  押し付けてくる。  全てをなくしてしまえるように  何もかもを忘れてしまえるように。  嫌な記憶は曖昧にしてしまおう。  あの頃の私が  折角私を殺しにきてくれたんだ。  
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