メリーゴー

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 「聞いてる?」  私が言う。  突然、聞こえてこなくなった声を  不審に感じて、私は言った。  『聞いてるよ』  「眠いなら寝て良いのに」  『なんだか勿体無くて』  舌打を、したくなる。  けれどしないのは  また腕を切って痛みが、  苛立ちを緩和したからだった。  良かった、私には味方が居て。  と私は思う。  私だけが私を愛し  私だけが私を知って  私だけが私に触れる私だけの世界。  その中に、誰かが侵入してくることは  不可能なことだった。  脆くて、高い塀の中私は居るのだ。  誰かが這入ってきた記憶はない。  「でも眠いんでしょ」  『……そんなことないよ』  「嘘ばかり」  取らなければ  電話を取ってしまわなければ良かった、  と後悔をする。  誰かがこの私の行為を  ストレス故だと言った。  病んでいるからだと。  そんなことはないと  私は反論したかったけれど、  私にも理解できない自分の行いに  自信や確証は持てなかった。  笑って、  そうなのかなと言ったのだ。  なんとなく、適当に  どうでもよくなって。  そんなところで反論を試みても  そんなところで自分を晒しても  私に何の利があるのだろうか。  強引に、  自分は正解なのだと  信じて疑わない人間は苦手だ。  私は疲れていた。  私にストレス故だとかいって  病んでいると決め付けようとする  その人間に、疲れていた。  どうせお前も  私を悪く言う一人なのだろうと、  私も私で決め付けて敵だと見なした。  
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