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ばっちりのタイミングで信号が青に変わる。
こちらへと渡ってくる先輩に、思い切って話しかけてみた。
「あのっ、この間はありがとうございました!」
「……ああ、入学式の日の」
誰だっけ? って聞き返されるとばっかり思ってたのに、返ってきたのは意外な言葉。
心の準備もその一言で吹っ飛んでしまって、途端(とたん)に何も言えなくなってしまう。
「あの! えっと……」
「ごめん。オレ、今から部活だから」
「あ、はい……」
覚えててくれたことは嬉しいけど、彩みたいにおしゃべりを弾ませることはできなかった。
これからオーディションだっていうのに、すとんと気持ちが落ち込んだまま、曖昧(あいまい)な笑顔で一歩踏み出す。
「かわいいじゃん」
「え?」
「似合ってるよ」
それだけ言って、先輩はスタスタと歩き去ってしまう。
「え!? えっ…………えーっ!?」
(先輩がほめてくれた──!)
それはまるで、勇気を出したあたしへの、神様からのご褒美(ほうび)みたいな一言だった。
上機嫌で電車を乗り継ぎ、オーディション会場の編集部へ。
ちゃんとした会社に来るのなんかもちろん初めてで、当たり前だけど緊張しちゃう。
入り口で番号の入ったネームプレートをもらう。
13番──これがあたしの番号。
(佐久間先輩には会えたし、もしかして合格しちゃうかも!)
一瞬、嬉しい気持ちになったけど、控室のドアを開けた瞬間、それは粉々に砕(くだ)け散った。
ふんわりとお花みたいないい香り。
小さい顔に大きな目、カノンみたいにかわいい女の子たちがずらっと椅子(いす)に並んでいる。
「おつかれさまです~!!」
空いている椅子に座ったら、隣の美少女に挨拶(あいさつ)された。
(めちゃくちゃかわいいし!)
すらっと背が高いその子は、本当のモデルみたいにスタイルがいい。
香水をつけているのか、動くたびにオレンジの香りが漂ってくる。
「お、おつかれさまです」
(これがギョーカイのお約束!? まだつかれることしてないよ!?)
なんだかあたしだけ場違いみたい。
控室に揃(そろ)った女の子たちは、みんなキラキラしてて、お人形さんみたいで、格が違うって感じ。
(すごいなー……。でもカノンは、もっとかわいいんだろうな)
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