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緊張を紛らわそうとそんなことを考えていたら、何かの順番が回ってきたみたい。
優しそうなスタッフさんに連れられて、あたしは別の部屋へと案内された。
「今から順番に、ヘアメイクとカメラテストをしてもらいます」
明るいライトに照らされて鏡に映るあたしは、自分でもわかるぐらい引きつった顔をしている。
「緊張してるかな? リラックスして、軽く目をつぶっててね」
「はい! あの……あたし、メイクとかしたことなくて……」
「そうなの? じゃあきっとびっくりするよ。すっごくかわいく変身させてあげるから」
「……はい」
ドキドキしながら目を閉じる。
いい香りのクリームを塗(ぬ)られたり、ふわふわのパフで顔をなでられたり。
あたしは目をつぶったまま、「ちょっと顔を上げて」とか「横向いてみてね」とか、メイクさんに言われるまま、時々顔を動かすだけ。
どんなふうに変わるんだろう、これで少しは大人っぽくなれるかな、なんて考えていたら、いつの間にかメイクが完成していた。
「はい、出来上がり」
ポンと肩を叩(たた)かれて、そっと目を開けてみる。
「わぁ……!」
すごい! すごいすごい!
自分の顔なんて見慣れてるはずなのに、鏡の中には別人みたいなあたしがいた。
嬉しくてじっと鏡を見つめてしまう。
「どう? 気に入ってもらえた?」
「はい! ありがとうございます!」
「どういたしまして。優奈ちゃん、お肌がキレイだからメイクしやすかったよ。オーディションもがんばってね!」
「はい!」
お化粧の効果とメイクさんの応援で、気分も盛り上がってくる。
足どりも軽く、カメラテストの列に並びながら、そっと顔を触ってみる。
ほっぺはさらさらしたパウダーの感触。
まつげはビューラーとマスカラでくるんと持ち上がっている。
(まるでモデルさんみたい!)
こんな楽しいことをしてもらって、おまけにかわいい服を着て写真まで撮ってもらえて、モデルさんってなんて楽しそうなお仕事なんだろう。
でも浮かれ気分はそうそう長くは続かなかった。
「次、13番の皆本優奈さん」
「は、はいっ!」
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