第3話 オーディション当日

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まるで雑誌からそのまま抜け出してきたみたい。 手も足も首も全部細くて、髪もクルクルに巻いていて、オシャレな服を完璧に着こなしている。 ただそこに座っているだけなのに、まるでスポットライトでも当たっているみたいに目を引く存在。 (すごーい! すごーい! めちゃくちゃかわいい……!!) 面接の緊張も吹っ飛んじゃうぐらい興奮して見つめていたら、それに気づいたカノンがあたしのほうを見てくれた。 (こっち向いたーっ!!) 明らかにカノンと視線が合ってる。 (カノンが見てる……見てるよー!!) 面接を控えた緊張感と、憧れの人と目が合った驚きとでカチコチになってるあたしに、カノンはふんわり微笑む。 すごく優しい笑顔に、さっきまでカチカチだったあたしの体もほぐれて、自然に笑顔になってくる。 (夢みたい……カノンがあたしに笑いかけてくれるなんて……) そのことがあまりにも嬉しくて、次々と進んでいく面接の様子なんかちっとも頭に入らない。 あたしはずーっとカノンを見つめていた。 (カノン、スタイルもいいけど姿勢もいいんだ……。それに指先まで意識が行き届いてる) 少しだけでもカノンに近づきたくて、あたしもお腹に力を入れて椅子の上で背筋を伸ばす。 揃えた両手は膝の上。足は開かないように引き締めて、爪先を揃えて横に流して──。 「では次、13番、皆本優奈さん。お願いします」 「──はい!」 さっきまでとは違って、自然と声が出る。 部屋中の視線を浴びながら立ち上がると、考える前に声が出ていた。 「あたしは──あたしは自分の笑顔で、みんなを笑顔にできるような、そんなモデルになりたいです!」 カノンに会いたいって一心でここまで来たあたしだけど、今この瞬間、心からモデルになりたいって思った。 だってたった一枚の写真で、ポスターで、カノンはいつでもあたしを励(はげ)ましてくれたから。 カノンがいなかったらオーディションを受けようなんて思わなかったし、きっと今朝だって、佐久間先輩にも話しかけられなかった。 カノンの笑顔であたしは勇気を出せたから、今度はあたしが誰かに勇気をあげたいって思ったのだ。 「なるほど。わかりました。では特技を教えてもらえますか?」 (特技……なんかあったっけ!?)
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