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受話器を握り締めて叫ぶあたしに、お母さんも何ごとかと近づいてくる。
「あの、あの、ホントのホントですか?」
『間違いありません。それで皆本さん、今はどこの事務所にも所属してないんですよね?』
「してません! 全然!!」
『では事務所の契約関係でお話があるので、お父様かお母様に代わっていただけますか?』
「はい……」
カナヅチで頭を叩かれたような衝撃からは立ち直ったけど、これが現実だなんて信じられない。
ふわふわしたまま電話を保留にして、心配そうな顔のお母さんに報告した。
「あのね、お母さん。あたし──オーディション合格だって……」
それからのことは、半分夢の中の出来事みたいだった。
次の日にはもう、両親といっしょにこれから所属することになる事務所に行って、難しそうな契約書にいくつも名前を書いてハンコを押してもらって、これからの注意事項や学校への報告について説明されて──。
一日がかりの大仕事の総仕上げは、これからあたしの担当マネージャーになるという関原さんってキレイな女の人との顔合わせだった。
まだモデルになった実感もないのに、どんどん周辺の状況だけが変わっていく。
事務所に来たのは午前中のことだったのに、全部の用事が終わり、懐かしささえ感じるわが家に帰ってきたのは、夜遅くになってからだった。
「つ……疲(つか)れたぁぁぁぁぁ」
女の子らしさからはおよそかけ離れたうめき声でベッドに倒れ込む。
(あたしがモデル……本当なのかな……)
この後に及んでまだ、それが現実とは思えない。
もっともオーディションに合格してからやったことと言えば、事務所に顔を出して契約を交わしたことと、マネージャーさんと顔を合わせたことぐらいなんだから、実感がないのは当然って気もする。
(でも夢じゃないんだ……)
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