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モデルになったからと言って、すぐに撮影が始まるわけじゃない。
ましてあたしは、ついこの間までただの中学生だったわけで、モデル業のことなんてなんにもわからない。
そんなあたしに関原さんが紹介してくれたのはモデルの卵のためのレッスン教室だった。
『ユウナちゃんもモデルになった以上、もっともっと自分を魅力(みりょく)的に見せる勉強をしないとね』
関原さんはそう言っていたけど、レッスン教室にいるのはみんな、あたしなんかより何倍も何十倍もかわいい女の子たちばかり。
とてもかないそうにはなかったけど、何もしないであきらめるのは性(しょう)に合わなくて、あたしは毎日レッスンに励んだ。
平日は学校が終わってから、土日は朝からびっしりレッスンを詰めこんで、家に帰ったら教えてもらったことの復習をして。
こんなに何かをがんばったことって、あたしの人生には今までなかったと思う。
でもどれだけがんばっても、自分がモデルだって自信はどこからも湧(わ)いてこなくて──。
だからあたしは、毎朝「連絡はあった?」ってたずねる彩に、曖昧な笑顔で「まだ」って答えることしかできなかった。
だって本当のことを言った瞬間に、あたしは彩の親友じゃなくて、モデルになった珍しい友だち──ってポジションになっちゃいそうで怖かったから。
(結局あたしって、どんなふうになっても悩んでばっかりなんだなぁ……)
モデルになったらこんな性格も変えられるかもって思ったけど、そう簡単にはいかないみたい。
毎日悩んだり不安になったり、ころころ変わる感情に振り回されているうちに、季節はいつの間にか夏になり、学校は夏休みに突入した。
みんなが休みに入ってすぐ、あたしはお母さんといっしょに学校へ行った。
これからモデルとして活動していくにあたって、学校と打ち合わせをするためだ。
担任と校長先生は「おめでとう」って言ってくれたけど、でも当分の間クラスのみんなには話さないようにって厳しく釘を刺された。
センパイにも言えそうにないっていうのはつまらないけど、でもこれは逆に好都合かもしれない。
だって先生に口止めされていたんじゃ、彩にもホントのことは言えないんだから。
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