6102人が本棚に入れています
本棚に追加
「ど、どうしよう……」
あたし、皆本優奈(みなもと ゆうな)、人生でいきなりの大ピンチ。
思えば予感は朝からあった。
真新しい制服のリボンはうまく結べなかったし、納豆にカラシを入れようとして洗い立てのシャツに飛ばしそうになったし、黒い猫に目の前を横切られながら走った通学路の信号は全部赤。
クラス分けの表はもっと余裕を持って確認したかったのに、たどり着いたのは時間ギリギリ。
おまけにあたしのクラスには、知ってる友だちは誰もいなくて──。
「入学式早々、教室がわからなくて遅刻とか、ありえなさすぎる……」
せっかちなお母さんは「入学式をベストポジションで見たいから!」って理由で、さっさと体育館へ行ってしまって、あたしはひとりぼっち。
教室の場所なら廊下を歩く上級生に聞けばわかるのかもしれないけど、相手が先輩ってだけで緊張してしまって、とてもそんなことなんか聞けそうにない。
明るいのに人見知りって自分の性格が恨めしくなるけど、反省会はまたあとで。
早くしないと、このままじゃ入学式に遅れちゃう──!
廊下を行ったり来たりしていたら、不意に声をかけられた。
「新入生?」
「あ……は、はい!」
「何してんの、こんなところで」
「えっと……」
(か、かっこいい……)
ネクタイが緑ってことは、たぶん3年生。
すらっと背が高くて色が白くて、まるでモデルか芸能人みたいな人だった。
「あの、教室がわからなくて」
「…………」
先輩がキュッと眉(まゆ)をしかめる。
新入生とはいえ、学校の中で迷子になるなんてバカだと思われたのかも。
なんだか先輩の顔を見ていられなくて、逃げるように視線を落とす。
上履きに書いてある<3-1 佐久間>って字が目に飛び込む。
「クラス、どこ?」
「え?」
「わからねーんだろ? お前のクラス。案内してやるよ」
「ええと……1組です」
「じゃ、こっちが近い」
短く言って、佐久間先輩はくるっと背中を向けるとさっさと歩き出してしまった。
あたしよりずっと背の高い先輩の歩幅は大きくて、小走りじゃないとついていけない。
一生懸命、先輩の背中を追いかけて、よくわからないまま階段を降りたり渡り廊下を歩いていると、突然先輩が足を止める。
最初のコメントを投稿しよう!