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「1組の教室、ここだから」
「あ……はい! ありがとうございます!」
「おう」
スタスタと歩いていく先輩の後ろ姿をぼんやり見つめるあたし。
まだ心臓がドキドキしてる。
先輩の後ろ姿はもうとっくに見えなくなってるのに、その場から動けない。
もしかして、もう1回戻ってきてくれないかな……なんて想像してみるけど、もちろんそんなはずはなくて。
代わりに、教室のドアの前で立ち尽くすあたしに声をかけたのは、ショートカットのカワイイ女の子だった。
「1組のコ?」
「あ、はい」
「じゃあ同クラじゃん。ウチ、牧野彩(まきの あや)。南小出身ね。そっちは?」
「あたしは皆本優奈。北小から」
「北小かぁ。てかさ、中入ってないとやばくない? もうすぐチャイムだよ」
「ホントだ!」
慌(あわ)てて教室の中に入る。
牧野さんは同小だった子がクラスの中にいたらしく、「これからよろしくね」ってあたしに言い残すと、すぐにそのグループにまじっておしゃべりを始めてしまった。
(いいなぁ、知ってる子がいて)
ひとりぼっちのあたしは、黒板に貼られた座席表を確認して自分の席に着く。
窓際なのはラッキーだけど、友だちがいないゆううつさはそんなことじゃ打ち消せない。
頬杖(ほおづえ)をついて、にぎやかな教室を眺(なが)める。
(…………さっきの先輩、カッコよかったなぁ)
いっしょにいたのはほんの数分なのに、佐久間先輩の顔はくっきりと心に焼きついて離れない。
(また会いたいな……。もう一度会えたら、今度はもっと話してみたいし)
──もっと話してみたい?
教室でこれからいっしょに1年を送るクラスメイトとも、まだ話せてないあたしが?
押さえ込んでいた不安が、ムクムクとわき上がってくる。
別に暗い性格ってわけじゃないけど、あたしは自分に自信が持てない。
勉強ができるわけじゃないし、スポーツだって人並で、顔は特別かわいくもないし、スタイルだってパッとしない。
好きになれない自分に自信を持つことはできなくて、ついつい人見知りも激しくなっちゃって。
こんな性格変えちゃいたいって自分でも思ってるけど、そう簡単にはいきそうにない。
楽しそうに笑う牧野さんを見ながら、ひっそりため息をついた。
(あのぐらいかわいかったら、もっと積極的になれたかなぁ)
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