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新しい学校、新しい校舎。
急に難しくなった勉強にもようやく慣れたのは、季節が春から夏へと変わるころだった。
あれから何回も、陸上部の練習で走る佐久間先輩の姿を見かけたけど、当然ながら進展はなし。
先輩はいつでもまっすぐ前を見つめてて、あたしなんかには気づきもしないで駆(か)け抜けていく。
でも、そんなところがクールでかっこいい! なんて思ってたりして……。
「ウチ、暑いの苦手なんだよねー」
「あたしもだよー」
屋上の日陰に座り込んで、紙パックのジュースにストローを突き刺した。
入学式以来、彩とはすっかり仲良し。もう親友って言ってもいいと思う。
お互い部活がないときは、こうして屋上でダベって帰るのが習慣になってたけど、そろそろもっと涼しい場所を探さないといけないかも。
「てゆーかさ、もうすぐ夏休みだよ。のんびりしてる場合じゃないよ」
「え? どうして?」
「だって夏休みに彼氏なしとか、さびしくない!?」
「うーん……そう……かな?」
佐久間先輩のことを思い出して、ドキンと心臓が高鳴る。
確かに佐久間先輩といっしょなら、夏休みだって冬休みだって、なんならテスト期間だってめちゃくちゃ楽しいと思うけど、そんなの全然現実感がない。
(彩はともかく、あたしなんて見るからにお子様だし……)
そう思うと、こうしていちごミルクなんて飲んでること自体、子供な証拠のような気がしてきてしまう(彩が飲んでるカフェオレは、いちごミルクより大人だと思う)。
「ねーねー、ユウは好きな人とかいないの?」
「え!? んー……好きっていうか、気になる人はいる……かな」
「マジで!? 誰!? 超興味あるんだけど!!」
あたしも驚(おどろ)くぐらい、勢いよく食いついてくる彩。
(でも彩になら、教えてもいいよね)
「あのね、3年の人で……」
「先輩かぁ!」
「佐久間先輩って名前だけは知ってるの。あと、陸上部にいるみたいで」
「陸上部の佐久間先輩って……ウチのお兄ちゃんのクラスメイトだよ」
「それ、ホント!? ってかお兄ちゃんいたんだ!?」
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