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「うん。ウチも何回か会ったことあるし。時々家に遊びに来るからさー」
「ええええーっ!?」
今までずーっと遠くにいた佐久間先輩が、急に近くに来たみたいだった。
「じゃーさ、今度佐久間先輩紹介してあげるよ!」
「いや、い……いいよいいよ!」
「なんで~」
「だって恥ずかしいもん!」
「最初だけだって! 佐久間先輩ってかなりモテるっぽいから、このぐらいしないとライバルに負けちゃうよ?」
(やっぱモテるんだー……)
「でも~……」
願ってもない話なのに、素直に「うん」とは言えない。
その原因がなんなのかは、もちろんあたしにもわかってる。
(だってあたしなんか、佐久間先輩に相手にもしてもらえるわけないし……)
自分でも好きになれない自分を、佐久間先輩が好きになってくれるはずがない。
「そんな弱気じゃダメだって! だからさ──」
「あー! 彩いたー!」
言いかけた彩を呼んだのは、彩と同小だったナナカとミオ。
2人は彩の親友だけど──あたしも親友かって言われると、かなり微妙なところ。
(あたしがいたら、ジャマになっちゃう……)
「彩、ごめん。あたしそろそろ帰るね」
謝(あやま)るジェスチャーをしながら立ち上がるあたし。
「えー、まだいいじゃん」
「ごめん! 今日はちょっとお母さんと約束があるから」
そう言って、あたしは小走りに屋上をあとにした。
──もちろん、お母さんと約束があるなんて大ウソ。
家に帰ったあたしは制服のまま、ベッドの上に倒れ込む。
「…………彩はいいな」
かわいくて明るくて、自分に自信がありそうで。
それは全部あたしが欲しくて、でも持っていないもの。
(彩みたいになれたらいいのに)
そうしたらきっと、毎日が今よりずっとずっと楽しくなると思う。
もちろん今だって、つまらないわけじゃない。
勉強は嫌いだけど学校に行くのは楽しいし、それなりに充実してるとも思う。
でも──そう、何かが足りないって思うのだ。
楽しいんだけど、本当にこれでいいのかなって。
でも足りないものが何なのか、それがあたしにはわからない。
心にぼんやりと、でも確かに穴が空いていて、どうやってそれを埋(う)めたらいいのかわからないような気持ち。
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