遠い記憶

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「ごめんなさい。アリスが知りたいことほとんどわからなくて…」 「いや、いいんだよ。もともとこれは俺が見つけなきゃいけないことなんだし」 申し訳なさそうに落ち込む王女様は、「こんなこと帽子屋にばれたら何言われるかな」と直也が舌を出すとくすりと控えめに笑った。 うん。やっぱ俺も王女様が言うのと一緒で笑顔の方がいいな…。 悲しい顔なんて見なくていいなら見たくない。どうしても見なきゃいけないときは、自分が笑わせてあげればいい。 「…ありがとう」 「わたくしはお礼を言われるようなことはしてないわ」 「そんなことないよ」 久しぶりにまともな人と話した気するもん。 帽子屋とばっか話してたら自分までおかしくなりそうだ。だってもう帽子屋が紅茶に何杯砂糖入れてても気にならなくなってきたし。もちろん俺はあんなの飲まないけど。       「姫さまーっ!!」 バタンッと大きな扉が突然開かれ、「姫さま」「姫さまー」と小さなトランプ兵たちがトタトタと可愛らしい足音をたてながら入ってきた。 無駄に広い部屋で王女様の足下についたときにはもう息切れしているトランプ兵。途中で脱落していった者たちの倒れた姿が、扉から王女様へと続いている。 なんて言うんだろう…こういうの…… 「どうかしたの?トランプ兵」 「大変なんです」 「大変なんですぅ」 二人のトランプ兵が交互に言う。 「ウカレ兎が現れて」 「三月兎を」 「拐ったんですぅ」 「……?!!」 ウカレ兎が三月兎を拐った…?!! どうして……   三月兎が、嫌いだから…?   「そんなことなの?わざわざ言いにくるような事でもないでしょうに…」 王女様はくだらないと言わんばかりの態度で紅茶を飲む。 「そんなこと…?そんなことで片付く事じゃないだろっ!!?」 「……アリ…ス?」 王女様は直也が何故怒っているのかわかっていない。 常識が違うんだ。どんなに変人じゃないと言っても、所詮住む世界は違う。怒ったって、どうしようもない事だ。 「トランプ兵」 「なんですかぁアリス」 「ウカレ兎が今どこにいるかわかるか?」 直也が言い終らないうちに王女様がガタンと椅子から立ち上がる。 「アリス?!!何をする気なの?!!」 「助けに行く」 そうでもしないと安心できない。こんなところでのんびり紅茶を楽しむ気分ではないのだ。 「トランプ兵、教えてくれ」 「アリスがそれを望まれるのなら……」
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