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「ウカレ兎は消えたんですよぅ」
ダイヤの7は指を一本たてながらそう言った。
「消えた…?」
「はい。そりゃあもう夜風の如く」
意味のわからないダイヤの7の例えに首を傾げながら、直也は王女様を振り返る。
「何処へ消えたの?」
王女様が聞くとダイヤの7はピシッと姿勢を正して口を開いた。
………が、声は王女様と直也の足下から聞こえてきた。
「森ですよ!!森っ!!」
ピョンピョンと跳ねながらクローバーの8が叫んでいる。
「奴は森に三月兎を連れ去ったんです!!」
「……森…ですって?」
王女様は考えるように顎に手をあてた。直也はそっとクローバーの8をテーブルの上に乗せてやる。
「森ってどこの森だ?」
「何言ってんですかいアリス、この国に森なんて一つあれば十分じゃないですか」
クローバーの8に言葉をとられたダイヤの7がふてくされる。しかし直也も王女様もおかまいなしで思考にふけっていた。
一つしかないってことは…あの森だよな。
帽子屋が、番人がいると嘘をついた森。あそこに行くのは気が進まないが、仕方あるまい。
「王女様はトランプ兵たちとチェシャ猫を捜してくれないか?」
「アリス?」
「俺は森に行く」
「何言ってるのアリス!!あの森は危険なのよ?!!」
「だからだよ」
安心させたくて、直也は王女様に笑顔を向ける。
「危ないところに王女様は連れて行けない」
「けれど一人では…」
それでも抗議しようとする王女様に、直也は嬉しい気持ちでいっぱいだった。心配かけるのが申し訳ないほどに。
「一人じゃないよ」
そっとテーブルの上のダイヤの7とクローバーの8を持ち上げる。
「二人を連れてく」
「ふえぇぇ」
「ふえぇぇ」
奇妙な声をあげたダイヤの7とクローバーの8は、直也の手からコロリと転げ落ちた。じたばたと腕を振り回して、けれど起き上がることはできない。
「二人って…トランプ兵を連れて行ったって何のやくにもたたないわよ」
「道ぐらいは知ってるだろ?」
「それは……そうですけど…」
まだ言いたげな王女様を笑顔で制す。
「なら問題ないよ。大丈夫だから」
「でも…」
「……それとも王女様は、アリスの言うことが信用できない?」
「とんでもない!!」
言ってから王女様は、しまったという顔をして可愛らしく頬を膨らませた。今の言葉で、直也の言う通りにしなければならなくなってしまった。
「やっぱりあなた意地悪ね、アリス」
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