遠い記憶

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「アリス、無茶はしないでね」 ぎゅっと王女様が直也の手を両手で握り締める。 「わかってるよ」 「本当に?」 「本当に。約束するよ」 「……絶対よ」 手を離した王女様が小指を差し出す。 「…うん」 直也はそっと指を絡ませ、優しく笑った。 「じゃ、行ってくるね。チェシャ猫の方よろしく」 「ええ。気をつけて」 手を振る直也の姿が見えなくなるまで、王女様はずっと視線をそらさなかった。           「…なんだかんだで」 「ねぇ」 「いい感じだよなあ~」 ポケットから顔をのぞかせたダイヤの7とクローバーの8は、直也を見ながら冷やかしの言葉をならべていった。 「約束だって」 「指切りまでしてねぇ」 「見つめあっちゃったりして」 「見つめあいはしてないだろっ!!」 さすがに無いことを言われた直也は顔を赤くしながら反論した。トランプ兵はそんな直也の姿を見てひそひそと何かを話している。 どーせ王女様とのこと言ってんだろ?今更こそこそしやがって。恋愛感情なんかないっつーんだよっ!!!! 「アリス」 「アリス」 「……なんだよ」 にやにやしながらダイヤの7が言う。 「おにあいですよぅ」 「だから違うっつの!!」 「あっしもお二方はおにあいだと思ってたんですよぉー」 そんなこと欠片も思っていないに決まってる。けれど言われるとなんだかまんざらでもないような気持ちになってしまうのだから不思議だ。 いやいや、有り得ないけど。 「そんなことよりちゃんと道教えろよ。じゃないとお前ら連れてきた意味ないからなー」 「わかってますって」 「照れなくていいんですよぅ」 「照れてないっ!!」 帽子屋でも会話のキャッチボールはできるってのに。こいつら帽子屋以下か?           しばらく歩くと森の入り口にたどり着いた。前に帽子屋と入ったところとは違う。 「お前らってさ、森の中もちゃんと道わかるよな?」 迷子になったら洒落にならないと思い聞く。 「当たり前じゃないですかぁ。この国に住む人なら誰でもわかりますよぅ」 「アリスはまだ来て日が浅いからわかんなくてもしょーがないですけどね」 どういう意味かはわかんないけど道がわかるならいいか。 「じゃあ行くか」 直也が一歩踏み出すとダイヤの7が小声で言う。 「本当に行くんですかぁ?」 クローバーの8も不安そうに直也を見て言った。 「…出てこれなくなっても知りませんよ」
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