遠い記憶

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「今更ひけるかっつの」 二人の言葉に不安を覚えながらも直也は足を進める。その間も彼等は落ち着きなく喋り続けた。 「でもねえアリス、ウカレ兎を見た場所へ今行ったところで奴がまだそこにいるとは限りませんよぅ?」 「時間もかなりたってますし」 確かにトランプ兵たちの言い分は正しい。直也自身もそう思う。 けど… 「それでも行かないよりはマシだろ」 諦めたらそこで終わり…?何が? 自分に問掛けて、無意味だということは遠の昔からわかってる。答えが出ないことはたくさんある。だからこそ、納得できるまで突き進むことを決意した。 「何もしないままいるのは……ただの馬鹿だよ」 「そうですかねぇ…」 「むやみやたらに突き進むのも、馬鹿だと思いますがね」 「だったら俺は諦める馬鹿より突き進む馬鹿を選ぶね」 何もしないで深く後悔した人を、俺は知ってるから…… 「馬鹿だとは思わないけど…」 呟きにトランプ兵が顔を上げたけど、直也は続きは口にしなかった。 「さっさと探さないとな、三月兎をさっ」 暗い考えを振りきって直也は歩く速度を速める。 「…早く」 チェシャ猫を捜してもらってはいるが、正直当てにはしていない。二人が一緒にいるところを見て思ったけど、彼等が別々に行動してるなんて…なにかあるんじゃないのか?だとしたら……すぐに現れない奴なんか待ってたってしかたない。俺が助けなきゃ。三月兎を。     だって俺は、この国の13代目アリスなんだから……────           「アリスはああ言っていたけれど…チェシャ猫の居場所なんてわかるわけないじゃないの」 散らばったトランプを片付けながら王女様は溜め息をついた。疲れて気を失ったトランプ兵は動くことができない。今の王女様には、頼れる人がいない。なのに一人でチェシャ猫を捜すなんて、無茶な話だ。 「どうすればいいの…?」 アリスの力になりたいのに、自分には何もできない。きっとアリスは、もともとわたくしに期待なんてしていなかったんだわ。   「おやおや、お困りですか?王女様?」 扉のところに立った影が王女様に優しく話しかける。王女様は彼の方を見ながらゆっくりと立ち上がった。   「お困りなら、私がお助けいたしましょう?」   甘い囁き。 わかっている。 彼は自分の利益でしか動かないと。 でも……     「チェシャ猫を…捜して欲しいの」
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