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「……つまり?」
「逃げられましたね」
クローバーの8はあっさりとそう言った。
「逃げられたって………まじかよ」
まだ追えば追い付けるとか、どうして逃げたのかとか、そんなことよりも裏切られたのがショックだった。けど…
帽子屋とはぐれた時ほどのショックはないんだよな。
帽子屋は何も言わずに消えたから?ダイヤの7とは、まさか逃げるとは思わなかったけど、自分から行動を別にしようって言ったから…?
「……やられたな」
クローバーの8に同意を求めるつもりで言ったが、彼は何も言わなかった。
「…どーする?お前も帰るか?」
「ま、まま……まさか…アリスを一人おいてなんて帰れませんよよ?」
震える手で直也のポケットの布をぎゅううっと握りながら、青白い顔でクローバーの8は言った。
そっか、こいつ怖がりなんだっけ。
一人残されるくらいなら一緒にいる方がましなのかなと解釈して、直也はクローバーの8を肩に乗せた。
「な…んですか?」
まだ青白い顔をしながらクローバーの8は直也を見る。
結構顔近いな…
「んー?いや、こっちの方がいいかなって。いろいろと」
「いろいろ…?」
「いろいろ」
特に意味はないけど、ポケットの中に入れているのを忘れて潰すのだけは嫌だったので、直也は適当に言って歩き始めた。
でもトランプだから潰れても平気なのかな…?
一瞬やってみたいかもと思ったけど何かあったら嫌なのでやめておいた。クローバーの8って怒ると怖いし。
「……これっ!!」
直也が勢い良く木に走り寄ったので、クローバーの8は慌ててシャツにしがみついた。
「どうしたんです?」
「爪…あと…」
熊か何かがひっかいたような痕が、木の幹にくっきりと残っている。えぐられて、けれど剥がれた皮は何処にも落ちていなかった。
「この森って…熊とかいんの?」
遭遇したら確実に食われると思い、直也は顔を青くする。体温が急激に下がっていくのがよくわかった。
「いない…はずです」
曖昧なクローバーの8の言い方。たぶん森に入ったこともなかったんだろうな。わかるはずもないか…。直也は幹をそっと撫でて、湿っていることに気づく。手を離すと、指先に赤いものがついていた。
「これって……」
言いたくなくて途中で止めたが、クローバーの8が恐る恐る続きを口にする。
「血…ですかね」
確かめる術なんてない。
嗚呼…ついてないなあ…
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