遠い記憶

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そういえば城に一人で来るのは初めてだな。最初のお茶会は帽子屋がいたし。 真っ赤な薔薇が咲き誇る広い庭を歩きながら直也はのんびり深呼吸する。 こっちは自然が多くていいなー… 「ア~リ~ス~~!!」 「………へ?」 物凄い勢いで砂煙をあげながら黒い影が直也に向かって走ってくる。 「?!!」 なんだ…あれ……!!? ヒュンッと紙でも切れそうな速さでそれが直也のすぐ横を通り過ぎる。恐る恐る振り返ると、王女様が植木の薔薇に突っ込んでいた。 「お…うじょ……様?」 「ア……リス…」 ぐすぐすと泣く王女様の目は兎みたいに真っ赤になっていた。頬には乾いた涙の跡。その上をまた、新しい涙が流れていく。 「ぐす…アリス……」 よろよろと起き上がった王女様のドレスには所々赤いペンキがついていた。それを見た王女様の表情が一瞬にして変わる。 「…………トランプ兵…」 今までとは全然違う低い王女様の声。 え……え…?!! 直也は冷や汗を流しながら目を丸くして王女様を見た。その足下、植木の中で小さな何かが震えている。 ……あれ?なんだろ… 「出てきなさいっ!!」 王女様は植木に手を突っ込むと、棘が刺さるのも構わずそれを掴み出した。 「すみませんっすみませんっすみませんっすみませんっすみませんっすみません~!!」 全身を震わせて、トランプは王女様の手の中で謝り続ける。 トランプが喋ってる…… 久しぶりに変な光景を見たなあと思いながらアリスは口を出さずに見守った。 この後ってどうなるんだっけ…。確か俺の記憶だとトランプ兵は死刑を言い渡されるはずだけど…… ちらりとトランプを見る。どこからどう見たって、トランプ。手と足が生えててトランプの真ん中からちょっと上辺りに顔が書かれてるけど、首は、無い。 「わたくしは赤い薔薇を植えるよう言ったはずよ。なのにこれはどういうことかしら……?」 「そ、そそそ…それは……」 涙目でトランプが直也を見る。 ………ん? 「アリスが!!」 トランプの言葉に直也は一瞬耳を疑った。 今、なんて言った…? 「アリスが白い薔薇が好きだって言ったんです~っ!!」 「はああああああ?!!」 言ってないし!!初対面だし!!つーか俺……トランプと違って首あるんですけど?!! 首を斬られる想像をして、直也は顔を青ざめさせた。
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