遠い記憶

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「絶対塩だ!!」 「いーや、絶対醤油だね」 白兎は帽子屋を睨みながら歯をぎりぎりとならす。 「醤油なんて汚らしい色をしてるじゃないかっ!!」 『塩派』の白兎はそんなことを言いながら怒鳴りすぎて頬を赤くしている。帽子屋はそんな白兎を上から見下ろして、勝ち誇った表情をしていた。 「だったらお前は醤油は絶対口にしないっていうのか?」 「当たり前だっ!!」 間発入れずに白兎が答える。すると帽子屋はにやりと口の端をあげて言った。 「なら刺し身を食べるときは?」 「……………うっ…」 まさかそっちにくるかと予想していなかった状況に白兎が言葉につまる。うっすら涙目。 「それに醤油ってもとは大豆だろ?お前の好きな豆腐も大豆からできてるんだよな~?ってことはお前は豆腐も食べないのか?」 白兎は白い物が好きだ。それは食べ物にしても同じことで、帽子屋はそれを知っていて意地悪な笑みをうかべる。 「豆腐は……豆腐は……………っ今は醤油の話だろっ!!原料が一緒でも醤油と豆腐は別物だっ!!」 かなり変な白兎の言い訳に、王女様は思わず笑ってしまった。 二人の視線が大きなお城の一角、小窓で腹を抱えて笑っている王女様を捕える。しばし無言で、白兎と帽子屋はお互い顔を見合わせると王女様のように大きく笑い声をあげた。今度はそんな二人を見て、王女様はぽかんと口をあける。 これが王女様が二人と仲良くなったきっかけだった。           「どうして二人はいつも喧嘩をしているの?」 城に二人を招いて、王女様はお茶会を始めた。といってもいきなりだったのでお菓子の用意はできなかったため紅茶だけというシンプルな会になってしまったが。 「したくてしてるわけじゃないっ帽子屋が俺につっかかってくるんだっ」 紅茶を飲みながら白兎は帽子屋に背を向けるように座る。 「私は喧嘩をしているつもりはないよ」 言って帽子屋がティーカップを音も無く置き、楽しそうに口許を歪める。 「いじめているんだ」   「…………」 「………………」 「本っ当あんた人間腐ってるな!!」 「白兎だっていつも楽しんでるんだからいいだろう?」 「俺が変態みたいに聞こえる言い方すんなっ!!」 二人の言い合いに王女様はこっそりと笑う。 喧嘩するほど仲が良いなんて、たしかにそうだなと、王女様は思った。
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