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「それからまた新しいアリスが来て……12代目は三月兎とチェシャ猫を連れて来たの。最初三月兎は警戒心出しまくりでね、チェシャ猫も自分から話したりする性格ではないから二人はアリスとしか話さなくなって孤立していたわ。それでもわたくしたちは彼等を迎え入れようとしたのだけど……ウカレ兎は決して三月兎を認めようとはしなかった。三月兎はどんどん心を閉ざして、…ほとんど外に出てこなくなってしまったの。わたくしがウカレ兎を嫌う理由はそれよ。けどウカレ兎は絶対に認めないし、三月兎もそれをしかたないと思っていたみたい……」
「どうして…」
「自分がウカレ兎って馬鹿みたいな名前だから嫉妬しているのよ。……けど」
王女様は何か言いたげに目を伏せる。その視線の先には小窓があり、それは王女様が帽子屋と白兎の喧嘩をいつも見ていたという窓だ。
「ウカレ兎は白兎に対しては何も言わないの。同じ兎なのに…何が違うのかしらね……」
直也も窓の外を見る。今はもうここから帽子屋と白兎の喧嘩を見ることはない。精神的に二人とも大人になったのだろう。けど…
王女様は寂しいんだろうな……。皆に仲良くいてほしいんだ。喧嘩してても二人が仲良しなのはよくわかる。けどウカレ兎と三月兎は……
「名前ってそんなに大切なのかしら…」
ぽつりと王女様がこぼす。
「お互いを呼ぶためには必要かもしれないけど…でも名前のせいで仲良くできないなんて………切なすぎる」
「……王女様…」
直也は、名前は大切なものだと思う。ここでは『直也』と呼ばれることはないけれど自分は直也だし、けど今は『アリス』でもある。どちらも自分の大切な名前だ。
「わたくしは最初は王女という名が嫌だったわ。だってそのせいで誰も友達にはなってくれなかったんだもの。たぶん帽子屋と白兎の二人も最初から友達とは思ってくれていなかっただろうし…」
あのきっかけがなかったら、関わることはなかったかもしれない。それがわかるからこそ、皆が仲良くなるためには何かしらのきっかけが必要だと思った。
けどあのウカレ兎がそのきっかけを壊すから…
「名前は…大切だけど……でも名前のせいで仲良くできないのはおかしいって俺も…思うよ。でもウカレ兎は…本当に名前だけで三月兎を嫌ってるのかな………」
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