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「他に思い当たる理由なんてないもの。それにウカレ兎は…初対面だった三月兎を突き飛ばしたのよ?!!」
「………」
「それにあいつ…三月兎のことを『ニセ兎』って言ったんだからっ」
………ニセ兎?
それは…三月兎は兎じゃないってことか?
「絶対許せない…不思議の国の住人は皆あいつが嫌いなんだから」
最初のお茶会では入れ違いだったから、直也はまだ二人が一緒にいるところを見たことがない。だからどうしてウカレ兎が三月兎を嫌いなのかも、『ニセ兎』と呼ぶのかもわからない。
けど…名前か……
たしかにウカレ兎って名前は俺も嫌だな、と直也は思いながら紅茶をすすった。
「もうウカレ兎の話はやめましょう」
王女様もティーカップを手に取る。話しすぎて喉が渇いていたのだろう。一気に飲みほして新たにポットから紅茶をたす。
「アリスが一番聞きたいのは…やっぱり彼の話かしら」
どきりと心臓が跳ねる。
彼……
王女様がこんなふうに言う人で思い当たるのなんて一人しかいない。
「前代アリス…」
「じいちゃん…」
ほぼ同時に言って直也は唾を飲んだ。
「アリスは彼の…何が聞きたい?」
「何が……って…」
そんなことを言われても、考えていなかった直也には即答できるはずもない。
…何が知りたい?
「俺は……」
アリスが、じいちゃんが、………
「………この国から出ていった理由」
「それは誰も知らないわ」
王女様の言葉に直也は驚く。
「どうして…?!!」
「彼は何も言わずに出ていったの。だから本当のところは誰も知らない…。予測できるのだって眠り鼠か帽子屋くらいだわ」
まるで接点の見つからない二人。
「眠り鼠と…帽子屋……」
「なついていたからね、二人とも彼に」
「どうして…」
「帽子屋の方は知らないけどいつの間にか行動をともにしてたわ。眠り鼠は一緒に暮らしてたのよ。アリスと」
そうだ。じいちゃんが言ってた守ってほしい『彼女』が眠り鼠ならそれは納得いく。けど帽子屋は…
なんでじいちゃん……?
帽子屋が依存してるアリスはじいちゃんじゃない。けど…なついてたんだ……
「アリスは今は帽子屋のところにいるんでしょう?嫌になったらいつでもここに来てね。アリスのためなら何部屋でも空けるから」
「は、はは…」
ぎこちなく苦笑して直也はカップを持ち上げる。
「冗談よ」
王女様はそう言って直也にウインクした。
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